「新しい社会的養育ビジョン」への要望書 vol.1

[2018年7月7日]

早稲田大学里親研究会「新しい社会的養育ビジョン」研究班

早稲田里親研究会「新しい社会的養育ビジョン」研究班は、早稲田大学人間科学学術院川名研究室が毎月主催する里親研究会の参加者の中から学生を含む有志により発足しました。 20165月の児童福祉法改正に続き、20178月に発表された「新しい社会的養育ビジョン」(以下、「新ビジョン」)は、日本の社会的養育の底上げを目指した内容で高く評価しております。

今、日本の社会的養護は大きな転機にあると感じています。私たちは「子どもの権利条約」の遵守を柱にした「新ビジョン」が実現可能な制度とするために必要なことは何か、現状を踏まえて問題やリスクを洗い出し、意見交換し、今後の制度運用において是非ともご検討いただきたいことを「子どもの権利条約」を中心に3つの項目にまとめました。

里親か施設かではなく、国、都道府県、市区町村、施設、そして里親を含む一般人が現状の問題点を共有し、それぞれの立場で反省し、子どもの将来のために痛みを伴う改革に乗り出す必要があると考えます。専門家任せにすることなく、国民一人一人が自分の問題として考え、小さな実践を積み上げて改善していけますよう要望をまとめましたのでご覧下さい。 


◆ 項目 ◆

Ⅰ 日本における子どもの現状 [要望1~3]  (1)社会的養護を巣立った当事者の追跡調査を (2用語の定義と算定基準の全国統一化

Ⅱ 子どもの権利条約の遵守の原則から [要望4~30] (1) 子どもの権利条約 周知の努力 (2) 子どもの権利条約 に基づく改革

Ⅲ 各機関への要望 [要望31~66] (1)児童相談所 の役割 (2)市区町村 の役割 (3)児童養護施設 の役割 (4)里親と里親支援機関 の役割 (5)第三者機関 の役割 (6)国 の役割 


Ⅰ 日本における子どもの現状

「新ビジョン」は、社会的養育の対象を「全ての子ども」としている。社会的養育とは、一部の困窮者のための家庭支援ではなく、人生の中で危機に直面した時、子どもと養育者を国と地方自治体が保護する制度である。しかし、社会的養育を見直そうとする今、社会的養育を受けてきた子どもたちの「統計や調査」が適切に管理されず、基礎データが乏しいことがわかる。まずは客観的資料の適切な管理を次のように要望したい。

(1) 社会的養護を巣立った当事者の追跡調査を

要望1[基礎調査]

< 国への要望 >

日本の社会的養護は根本的に変わる必要があり、 「新ビジョン」で提示された内容はこれまでの施設養育から家庭養育への転換を図る画期的な内容である。これまでは、社会的養護から巣立った当事者の全国的な追跡調査が行われることなく、費用対効果の検証もされてこなかった。 また、社会的養護の当事者は、自立後も厳しい生活を送っていると推察されるが、措置をした行政の責任として追跡する仕組みがないことに問題がある。まずは、特別養子縁組も含めた全国規模での追跡調査を実施したうえで議論する必要があるのではないか。

(2) 用語の定義と算定基準の全国統一化

要望2[定義と算定基準」

< 国への要望 >

「委託率」「里親数」の定義と算定基準が都道府県によって統一されていないため、データの比較に意味がない。 また恣意的に数値を操作できる懸念がある。

要望3 [障害児データの共有]

< 国への要望 >

親に育児放棄された子どもの中には障害児も多く含まれるが、現在も「社会的養護の必要な子ども」の数には「障害児施設に入所の子ども」はカウントされていない。正しく現状を把握するには「社会的入院」を含めた子どもの実数をデータに含める必要があるのではないか。

Ⅱ 子どもの権利条約の遵守の原則から

「新ビジョン」を語る前に、今の日本人の大多数がその根本理念である「子どもの権利条約」を知らないという現状がある。この条約は、1994年に日本が批准し、日本国憲法の次に優先される国際法規であるにもかかわらず、国が積極的に推進してこなかったので、国連子どもの権利委員会からは日本の子どもの福祉の遅れを指摘され続けている。国、都道府県、市区町村の行政機関は早急にこの条約の周知を図ると同時に「新ビジョン」に則った法整備や改革をする必要がある。法治国家において、法を遵守するべき全ての大人がまず、「子どもの権利条約」を理解し、現状とのギャップを埋めることが今求められている。

(1)子どもの権利条約 周知の努力

【第3条 子どもの最善の利益】 【第4条 締約国の実施義務】

要望4 [全ての子どもへのパーマネンシー保障]

< 国・都道府県・地域への要望 >

子どもの権利条約の第3条と第4条には「子どもの最善の利益」を「国が保障すること」が定められている。第1条には子どもの定義として「18歳未満」とされているが、人生80年の現代ではその後を展望する必要がある。親という身近な支援者を欠いた社会的養育を必要とする子どもにとっては特に18歳以降のパーマネンシー保障は欠かせない。子どもたちが措置終了後も相談相手として関わり続けられるように地域里親的な役割を果たす大人の存在が必要である。 地域の特定の大人と、子どもの特質を知る施設と民間支援機関がチームを組むことで子どもの孤立を防ぎ、セーフティネットの役割を果たすべきである。

要望5 [省庁の垣根を超えた連携]

< 国への要望 >

現代社会の子どもをとりまく問題は厚労省のみで解決できるものではなく、文科省や法務省の管轄分野にまたがっており、縦割り行政では限界がある。 北欧の「家庭こども庁」のようなあらゆる行政機関を横断した新たな「子どものための行政機関」を創設し、子どもの権利条約の周知や生育記録の管理なども含めた子どもに関する問題解決に特化した新たな機関を創って欲しい。

【第6条 生命への権利、生存・発達の確保】【第19条 親による虐待・放任・搾取からの保護】

要望6 [子どもの死の検証]

< 国・都道府県・地域への要望 >

毎年発表される虐待件数の増加が止まらない。また、子どもの虐待死の件数も「毎日一人が亡くなる計算になる」というが、その「全ての子どもの死の検証」の結果と考察を地域社会で共有し、対策を住民自らが考え、例えば「気になる家庭」の見守りをしていくことが求められる。

要望7 [民法 親権の見直し]

< 国・都道府県への要望 >

日本では民法の「親権」が、子どもの権利よりも優先されている事実がある。司法の判断による「親子分離と再統合」または、「養子縁組」の判断基準を明確にし、国は法整備を急がなくてはならない。現状はケースワーカーの力量や個々の判断で子どもの将来が大きく影響を受け、里親による家庭養育よりも施設養育中心となっているが、今後は、例えば「実親が3か月放任した場合は養子縁組をする」などの時限を設けて、子どものパーマネンシー保障に寄与すべきである。

要望8 [法の優先順位]

< 国への要望 >

法律には、その重要度からまず「日本国憲法」、次に国際法である「子どもの権利条約」があり、「民法上の親権」はその下位にある。その原則にしたがって法律を整備・改正し、子どもの福祉に活かすべきではないか。現代の日本には未だに家父長制度の名残があり「子どもは親の所有物」的意識があるが、国は日本国憲法の「基本的人権」と子どもの権利条約の「子どもの最善の利益」を守る義務を負う。そもそも「親権」とは、言葉によって自分の思いを表現できない子どもに代わって親が子どもの権利を代弁できる権利のはずで、子どもの福祉に反して乱用されるべきではないことも伝えたい。

要望9[司法判断]

< 国・都道府県への要望 >

児童相談所の行う一時保護を含む「親子分離」の強制執行については、後で家庭裁判所が追認することが多く、司法が後手に回っている感がある。司法関係者の「子どもの権利条約」理解が進んでいないことも報告されているので、民間の第三者機関も入り、児童相談所と司法の判断が適正か観る必要がある。また、この分離については家庭環境が一変することなので、子どもの意見の尊重(第12条)にも配慮し、丁寧な説明とケアが必要である。

【第9条 親からの分離禁止と分離のための手続き】

要望10 [実親への再統合教育]

< 国・都道府県・地域への要望 >

「子どもの権利条約」には、実親が子どもを養育する権利と責任、そして、子どもがむやみに親と引き離されない権利が保障されている。親権の停止については、親権停止の解除に向けて、実親への再教育もセットでなされるべきである。 フィンランドなど福祉先進国や日本の一部で行われている実親への再教育プログラム(ペアレント・トレーニング)の全国的な展開を期待する。

要望11 [養育費]

< 国・都道府県への要望 >

実(母)親が経済的理由で子どもを手放さなくてもすむよう、子どもの育ちの保障を最優先するため、実(父)親への養育費の強制徴収に向けた法改正なども検討すべきではないか。 関係省庁と連携して子どもが健全に育ち将来に向けた希望を持てるよう、国による養育費の立替払いも含めた法改正を検討してほしい。 

【第20条 家庭環境を奪われた子どもの保護】

要望12 [家庭で育つ意義]

< 国・都道府県・代替養育者への要望 >

「新ビジョン」では、代替養育における優先順位が明確に記されている。「家庭で育つ意義」は、子どもには自分だけを見守る大人が必要であり、それは、18歳以降も変わらず見守り支えることである。施設の職員は精一杯の愛情で子どもに接したとしても転職の可能性もあり、自身の生活がある。仕事で関わっていることを子どもたちは感じており、職員に対する執着を持つといずれ自分が傷つくことも知っている。代替家庭である養親や里親のもとで育つことは、冠婚葬祭の大きな人生の節目に立ち会うことや様々な年齢の多様な人との豊かな経験を重ねながら、これから先の長い人生を展望することにつながる。

要望13 [永続的解決(パ―マネンシー保障)]

養子縁組里親には子どもに対する選好があるようだが、「子どもの福祉」が目的であることに理解がなければ難しいのではないか。 また養親の戸籍に入ることから、その近親者を含めた制度への理解と同意を確認することが必要になる。また、社会的養育を必要とする子どもは将来的に何らかの障害が発現するリスクがあるという前提を理解し、養子縁組を希望する里親に対してその前提に沿った研修と支援が必要となる。

要望14 [全国規模での官民による養子縁組の協働]

< 国への要望 >

児童相談所の養子縁組委託は担当行政地域内のマッチングに限られるため、子どもが養子縁組される機会を制限することになり、結果的に子どもが家庭で育つ権利の侵害になっている。 全国規模で実績のある民間機関と里親・里子のリストを共有してマッチングすることはできないか。加えて、養子縁組み後の告知や養育技術研修も協働していくことで、養子縁組家庭への支援を継続し、子どもの代弁も保障していくことができるのではないか。

要望15 [待機期間への再検討]

< 国・都道府県への要望 >

特別養子縁組を希望する里親は、実親の心変わりに脅えながら、半年以上の待機を強いられているのが現状だが、愛着形成へ大事な時期に養親の不安定な状態が長期間続くことは養育上好ましくない。家庭裁判所が「実親に育てられない」と判断した場合は、児童相談所や民間あっせん団体が養子縁組を早急に進めるべきである。

【第7条 名前・国籍を知る権利、親を知り養育される権利】

要望16 [内密出産]

< 国・都道府県への要望 >

産みの母親の「隠したい」という想いと、「親を知り養育される権利」は相反する。子どもの権利を主体とするならば「内密出産」の制度化を含め、この部分の整理と明確化が必要になるのではないか。 その際には、適切な時期に親の情報を子に開示するため、国の責任で親の記録を保管することが求められる。

要望17 [養親の真実告知]

< 国・都道府県・養親への要望 >

特別養子縁組の場合、戸籍上も実親との関係が見えなくなり、告知が遅れたりなされないこともあると聞く。「親を知り養育される権利」に配慮して、告知のしかたや事実を知った後の子どもへのケアは必要である。児童相談所が縁組みした特別養子縁組家庭についても実績ある民間機関と連携しながら進めることも考えられるのではないか。

要望18 [代替養育先での出自の記録の公的保存]

< 国への要望 >

自分が希望したわけでもなく社会的養護の中で育たたざるを得なかった子どもたちは、養育者が頻回に変わる経験をしてきたため、自立した時に生まれた時の自分を知っている人が周囲にひとりもいなくなっていることが往々にしてある。 現在は行政記録も保管期間が限られるために、自分が措置された経緯すら不明なケースも多い。 実親への親権制限の一方で、戸籍上の縁は切れても血縁は切れないので、すべての社会的養護の子ども達に「出自の記録の管理」は必要だが、それが公的なシステムとして確立されていないことも先進国と比較して日本は遅れている。 社会的養護のもとで育った子どもたちの子ども時代を空白にしないため、措置をした行政が記録を長期間保存する責任があるのではないか。人の移動も激しい現代では、国の中央機関を新設し、一元的に保管することが望ましい。

要望19 [出自の記録の保存期間]

< 国への要望 >

日本の場合、多くの自治体で児童の措置の経緯を記録した書類の保存期間は、子どもが18歳に達して措置解除後5年程度が多いとみられる。 イギリスでは社会的養護の子ども達の「生育歴」は75年間保存される。今後は記録の電子化を検討し、より長い期間の保存を実現して欲しい。

【第12条 子どもの意見の尊重】

要望20 [子ども自身の生活の場の選択]

< 国・都道府県・施設への要望 >

施設で生活する子どもには特に、社会的養育には施設養育と家庭養育があることと、それぞれの特性を説明し、子どもには選択肢があることを定期的に伝えることが必要ではないか。 そのうえで子どもの意見とその選択を尊重できるよう配慮して欲しい。

【第14条 思想・良心・宗教の自由】

要望21 [信教の自由]

< 国・代替養育への要望 >

代替養育の中には、天理教、キリスト教などが母体となっている文化がある。 宗教行事は里親家庭の生活の一部になっているが、子どもの信仰の自由については保障する必要がある。 今後はその部分への周知や研修も必要ではないか。

【第25条 施設等に措置された子どもの定期的審査】

要望22 [特別な支援と保障]

< 国・都道府県・地域・代替養育への要望 >

「新ビジョン」の「施設養育で求められる高度な専門性」にある虐待やネグレクトなどの不適切な養育を受けてきた子どもは障害をもつことが多く、養育するには高い専門性が必要になる。彼らの養育は施設に偏る傾向にあるが、彼らにこそ家庭養育は必要であり、社会性を育てる必要もある。施設のある市区町村や民間機関とのきめ細かな地域連携が求められる。

【第28条 教育への権利】

要望23 [義務教育の保障]

< 国・都道府県への要望 >

児童相談所内の一時保護所の子どもの教育権の侵害については、何年も前から指摘されていたにも関わらず改善されてこなかった。この機に「一時保護所における教育の在り方」について関係省庁や第三者機関と協働し、事例をもとに客観性をもちながらオープンな形で再検証をしてほしい。

【第34条 性的搾取・虐待からの保護】

要望24 [環境への配慮]

<都道府県・施設・代替養育者への要望 >

性虐待の多くは、大人と子ども、子どもと子どもなどが1対1の状況になったときに発生する。それは強者と弱者の関係であり、実親子、継親子、里親子、施設内の子ども同士でも発生するため、そうした密室を作らない環境作りと配慮が必要である。三日里親やフレンドファミリーなどの家庭体験事業を通して子ども一人一人が個別に施設外部の大人と関係を持つことは、施設の透明性を高め、施設内虐待の防止にも寄与するのではないか。

要望25 [児童間性虐待]

< 国・都道府県・施設への要望 >

学童期以降の児童の周囲には力関係が存在するようになり、児童養護施設で児童間虐待・性虐待が起こりやすい。限られた職員では児童間虐待、性虐待を適切に防止するには限界がある。 他に逃げ場がない子どもの生活の安全・安心を守るため、児童福祉法「被措置児童等虐待」の規定を変更し、「日常的発見義務」「早期発見義務」を追加し、なおかつすべての児童福祉施設において、全児童・全職員が話し合いに参加することにより被害を防止する「安全委員会」などの導入を義務化して欲しい。

(2)子どもの権利条約に基づく改革

要望26 [あらゆる教育環境での周知]

< 国・都道府県・市区町村への要望 >

幼児教育、学校教育の現場で、年齢に応じて「子どもの権利条約」の理解を深め、自分が置かれている環境が子どもの権利に沿っているか自己判断ができるようなプログラムの導入が必要ではないか。また、権利を守るべき大人(保護者)も「子どもの権利」を学ぶ必要がある。

要望27 [専門職への周知]

< 国・都道府県・市区町村への要望 >

既に国連から勧告を受けているとおり、実際に子どもや親と接する機会の多い保育士、保健師等の福祉専門職や医療従事者、教育関係者には先行して「子どもの権利条約」の周知を徹底して欲しい。周知されることで多様な家族への理解が進み、授業内容への配慮や医療を受ける際の受診券の説明をしなくて済む。また、これらの専門職が率先して里親になることを推進したい。

要望28 [ステップファミリーへの周知]

< 国・都道府県・市区町村への要望 >

近年増加しているステップファミリー家庭(血縁のない子育て家庭)は、特に虐待リスクが高くなる恐れがある。 里親家庭を含めた「血縁のない子育て家庭」については、親に対する「子どもの権利」の啓発やペアレント・トレーニングなどを取り入れた子どもへの関わり方の研修機会の提供など、虐待予防の観点から市町村の特別な支援が求められる。

要望29 [性教育と社会的養育]

< 国・都道府県・市区町村への要望 >

欧米に比べて日本では性教育に後ろ向きな傾向があるが、性教育はあらゆる「人権」を考える根本である。学齢期からの適切な教育により、望まない妊娠、中絶などに由来する社会的養育の存在を知り、同時に性感染症やLGBTへの基礎知識も学ぶことで、偏見や差別の解消につながるだろう。また生まれた子どもの様々な悩みを知ることで「命の大切さ」や「親になることの責任」を知ることができる。

要望30 [子どもの権利啓発のための広告]

< 国と民間機関への要望 >

行政は「子どもの権利」啓発のため、ACジャパン広告、駅やコンビニなど公共性の高い場所でのポスター掲示など、広く一般の目に触れる場所に積極的に広報して欲しい。 それが結果的に児童虐待の抑止力になることを期待したい。

Ⅲ 各機関への要望

ここでは、国はもちろんのこと、都道府県管轄の児童相談所、市区町村の中にある乳児院・児童養護施設、里親と里親支援機関など民間団体に求められる役割と、その役割の実行を見守る第三者機関の必要性を伝えたい。

(1) 児童相談所の役割

要望31 [司法との分離]

< 国・都道府県への要望 >

親子分離については、子どもの権利条約20条に述べたとおりだが、これには司法と行政の明確な役割の分離が必要であることを改めて述べたい。児童相談所の機能として「親子支援」と「親子の引き離し」の機能を合わせ持つことの矛盾は以前から指摘されている。一時保護はこれまで「虐待親が連れ戻すという危険性」という理由で親から隔離してきたが、実際にそのようなケースはどれくらいあるのか。児童相談所が強制保護することは、実親と摩擦を意味し、その後の家族支援の中でも「不信感」は免れないだろう。司法である家庭裁判所が適正に関与する体制を早急に整えるだけでなく、民間の第三者機関を入れて信用回復を求めたい。

要望32[子どもの意見を尊重する弁護士の配置]

< 国・都道府県への要望 >

子どもの意見を尊重する弁護士を児童相談所に配置することは評価するが、一方で旧態依然とした児童相談所の権限強化も懸念されるので、公平に判断する第三者機関の設置も必要だ。

要望33 [児童相談所と警察の連携]

< 国・都道府県への要望 >

児童相談所と警察の連携の有無は都道府県によって大きく異なる。凶暴な親も居るので、親子分離の際は警察との連携と協力体制を構築する必要があるのではないか。国は全国的な調査を行い緊急保護や親子分離時の警察との協力体制について指針を出すべきである。行政間の情報共有を怠ったことによる「子どもの死亡致死」を肝に銘じて、子どもが小さな命を落とすことの無いようにしてほしい。

要望34 [一時保護所の環境]

< 国・都道府県への要望 >

突然知らない場所に保護される子どもの不安を十分に考慮し、保護された理由と今後の見通しを年齢に応じて理解できる方法で伝えることを義務付けて欲しい。その際、リラックスした環境で、後で検証が可能なように録画記録を撮ることなども検討されるべきではないか。また、慢性的な定員超過となっている一時保護所に突然保護される子どもへの十分な衛生的配慮をして欲しい。

要望35 [一時保護所の非行児と虐待児の分離]

< 都道府県への要望 >

これまでの一時保護所は、管理する立場の者が子どもをコントロールしやすい観点で運用されてきたが、虐待保護された子どもは不安が強いことに配慮し、大声や威圧的な環境にさらさないため、非行保護と虐待保護は施設や保育者を含め、明確に分離すべきである。 また発達障害などの感覚過敏な子どもへの配慮も不可欠である。

要望36[一時保護所の里親の活用]

< 国・都道府県への要望 >

一時保護所の環境については以前から「格子なき牢獄」と例えられるほど問題視されており、今回の法改正で入所期間の大幅な短縮を掲げている。 しかし、短期間といえども保護された子どもがPTSDを発症しかねない劣悪な環境は改善されなければならず、一時保護所の根本的な改善の一方、「一時保護里親」の活用と里親支援体制が求められている。

要望37 [一時保護所期間の更新判断]

< 国・都道府県への要望 >

緊急一時保護は、子どもの安全を第一に行われるが、2か月未満のはずが、数か月の長期に及ぶ実態がある。これは、子どもの権利条約に違反する。子どもの一日は、成人の大人の何倍もの濃さがあることを考慮し、2か月ごとの更新も司法と第三者機関を交えた公平で冷静な判断がなされるべきであろう。

要望38 [児童相談所職員の担当件数]

< 国・都道府県への要望 >

児童相談所職員が一人当たり抱える件数が100件を超えると聞くが、それではそれぞれの家庭に寄り添った丁寧な対応は不可能である。専門職を増員し研修で質の向上を図ることは重要だが、本当に専門職がやるべき業務を精査し、専門職1人あたりのケース数を制限してきめ細かい対応をしていく必要があるのではないか。

また、ケースワーカーの判断基準がまちまちで、専門職個人の力量によって子どもの将来が大きく左右される事実もあるので、判断基準を明確にし、透明性を高めて欲しい。

要望39 [職員の熱意]

< 国・都道府県への要望 >

児童相談所に配属される行政職員は子どもの将来への長期的な視点が必要であり、一人一人の子どもへの理解がその後の子どもの人生を左右しかねないことから、熱意のある職員を配置してほしい。

要望40 [職員の異動]

< 国・都道府県・地域への要望 >

児童相談所職員は、数年毎の異動から免れず、時間と経費をかけた研修内容が活かされないという無駄が反省もなく長年続けられている。 児童相談所の社会的養護関連の業務を基本的にすべて外部委託し、児童相談所の機能を「審査・認可・記録」等の事務処理へと転換するなどの思い切った組織改革も検討されるべきではないか。

要望41 [民間資源の活用]

< 国・都道府県・地域への要望 >

福祉財源や専門職の数が限られ、しかも異動も多いことから、長期間関われる地域ボランンティアを研修し、専門職の監督のもとに公的に活用していくことも検討されるべきではないか。 またボランティアの活動内容によっては、確定申告手続きなどで一定の税金還付が受けられる形で有償とすることも検討していくべきではないか。 

(2) 市区町村の役割 ~市町村・施設・里親・支援機関との連携~

要望42 [実親教育]

< 国・都道府県・市区町村への要望 >

虐待する親は、虐待されて育った経験を持つ「負の連鎖」がある場合が多く、そのような親は子育ての知識やモデルがない。 ペアレント・トレーニングのような研修を実親に義務付け、親子の再統合にむけて段階的にきめ細かい確認と支援をする必要がある。

要望43 [ステップファミリーの見守り]

< 国・都道府県・市区町村への要望 >

近年増加しているステップファミリー家庭(血縁のない子育て家庭)は、「血縁のない子育て」で、特に虐待リスクが高くなる恐れがある。 ペアレント・トレーニングなどを取り入れた子どもへの関わり方と、「子どもの権利」への理解は欠かせない。虐待予防の観点からも市町村の特別な支援が求められる。

要望44 [サポート拠点]

< 国・都道府県・市区町村・施設への要望 >

社会的養護の子どもは虐待などの経験から障害をもつ率が高い傾向があり、専門性の高いサポートが必要になることから、地域に1箇所は専門的なサポート拠点を置く必要がある。

要望45 [官民協働事業]

< 国・都道府県への要望 >

「ショートステイ事業の充実」として、モッキンバードファミリーモデルなど海外のモデルも取り入れながら、要支援家庭や里親家庭も含めてサポートする体制を民間と市区町村が協同して整えるべきである。

(3) 児童養護施設の役割

要望46 [機能転換]

< 施設への要望 > これまでの代替養育システムでは施設経営には子どもの数を確保する必要があり、子どもの最善の福祉よりも施設経営が優先されてきたという指摘がある。 しかし、施設には長年の養育経験と知見があり、今後の「新ビジョン」においてそのノウハウは必要不可欠なものであることは間違いない。今後は施設が里親をバックアップするフォスタリングエージェンシーにシフトし、地域の代替養育の要としての役割を担ってほしい。

要望47 [相互交流]

< 施設への要望 >

実際にバーンアウト寸前だった里親家庭の里子を、しばらくの間レスパイトで施設のグループホームで預かったところ子ども同士の交流で良い効果があり、結果的に措置解除に至らなかった例もあった。 非常にうまくいった例ではあるが、施設と里親家庭の理想的な交流支援ケースだと思う。 また里親家庭と施設が相互交流することによって、里親家庭の透明性を高めることも可能になると考える。

要望48 [自立支援]

<国への要望 >

社会的養育を必要とする子どもの多くは、実親からのネグレクトや虐待を受け、代替養育の中でも頻回に及ぶ別れや喪失体験があり、社会的養育解除後は頼る親もいないまま生活せざるをえないため、孤立しないように配慮する必要がある。 そのためには施設入所中に、三日里親やフレンドファミリーなどの家庭体験事業を通して子ども一人一人に継続的に関われる大人(実親・里親・ボランティア)を紐付けすることで孤立予防の可能性が高まるのではないか。また、これまで国が行ってこなかった追跡調査に漏れてきた子どもたちは、不服申し立ても困難な子どもに相当するので、これからでも救済を考えて欲しい。 

(4) 里親と里親支援機関の役割

要望49 [里親の質]

< 国・都道府県への要望 >

原則家庭養育優先の原則の方針が打ち出されたが、「里親制度」への理解は進んでいない。里親はライフスタイルも考え方も多様な一般人であり、子育てに対する考え方や意識も異なるので、サポートが整わないうちに拙速に委託が進めば、結果として大きな事件や事故が起きることも考えられる。 子どもの利益を考えれば、十分な「里親支援」体制は大前提だ。 また、多様性を持つ里親の中にはLGBTも含まれるので、プライバシーを守りつつ子どもと養育者が孤立しないような配慮が求められる。

要望50 [里親リクルート]

< 国・都道府県への要望 >

社会情勢や家族の形態、夫婦の働き方など、里親に関するあらゆる基準を時代に合わせて再度見直し、必要に応じた法改正が必要ではないか。 里親リクルートで求められることは、「社会的養護・代替養護の下で育たざるを得ない子ども達に強く共感できる人々をどうやって掘り起こしていけるか」ということである。そしてそれは「夫婦である」必要が本当にあるのか。

また、里親研修においても日程が平日中心に組まれ、直前まで日程が確定しないことは、依然として里親制度が専業主婦を前提とされたものであると思える。 研修のための特別休暇が取得できるような制度改革なども含め、時代に合わせてさらなる改善を期待したい。

要望51 [中高生の里親]

< 国・都道府県への要望 >

近年、中高生の保護が増加傾向にあるが、子どもが勉学に向き合える安定的な居場所が必要であることから、受け入れる側の間口を広げ、夫婦が揃っている里親家庭だけでなく、高齢者里親や同性婚家庭など多様な家庭への受け入れを検討すべきではないか。子どもの福祉のための一律な里親制度からさらに踏み込んで、子どもの年齢と成長に見合った里親制度の構築が求められる。

要望52 [ケアレベルの点数化と里親の質の確保]

< 国・都道府県への要望 >

社会的養護の子どもは被虐待などの経験から障害をもつ割合が高い傾向がある。 従来の「養育里親」や「専門里親」の類型だけではなく、ケアレベルを点数化し、それに応じた里親の育成と報酬をきめ細かく設定することは是非とも実現されたい。 同時に18歳以降の生活を里親家庭が丸抱えすることにならないような制度設計が必要になる。 アフターケアにも加算制を導入すべきではないか。

要望53 [チーム養育]

<国・都道府県・市区町村・里親への要望 >

血縁がない子どもの子育てには喜びとともに周りからは伺い知れない苦労があり、里親は必ず養育困難に直面するという前提で、子どもの養育者が頻回に変わらないよう里親制度を考える必要がある。 たとえば子どもに触法行為があったとしても安易な措置解除にせず、里親のもとで試行錯誤し、立ち直る機会を与えてもよいのではないか。 「レスパイト」「ショートステイ事業の充実」や、モッキンバードファミリーモデルなど海外のモデルも取り入れながら、里親子をサポートするチーム養育の体制を構築して欲しい。 そのような環境があれば、自立後もコミュニティの中に居場所があり、セーフティネットとして期待できると考える。

要望54 [週末里親の拡大]

<国・都道府県・市区町村への要望 >

現在は国の定める里親制度には含まれていない三日里親・週末里親などのホームステイ里親は、地域里親として施設と協働し、子どもの自立を支援する人的資源としての可能性を秘めている。また、子どもの状況に合わせて、良好な関係が築かれた段階で養子縁組を含めた長期養育へ移行できる可能性もあるが、現状は国が定める里親制度から切り離されている。 子どもの最善の利益から考えた場合、養育者が変わらずホームステイ里親~長期養育里親への段階的移行は子どもの最善の利益に適っているので、市区町村のファミリーサポ-ト制度~長期養育里親までの現在の行政の枠を超えた制度設計と、支援プログラム、研修のあり方、報酬の整備をすべきである。

要望55[里親の研修]

<国・都道府県・市区町村への要望 >

30年前の里親に求められていることと現在は大きく違ってきているので、里親に前述した段階的な制度設計に合った研修が必要だ。更新研修も5年に一度でなく、養育技術と報酬が見合う制度設計にすべきである。また、専門職が里親とともに検討会議を開催し、子どもや社会の変化に合致した柔軟な研修内容であることが望ましい。

要望56 [里親報酬]

<国・都道府県・市町区村への要望 >

里親の中でも養育里親は「報酬を得て行う仕事」と考える人と「仕事ではない有償ボランティア」ととらえる人がいることから、里親の意識の統一が図られるべきではないか。

要望57 [里親の名称]

< 国への要望 >

「里親」の名称は、実親から「子どもを奪われる」という誤解や抵抗を招きやすく、養子縁組とも混同され、社会的にも誤った認識になりがちで、子どもにとっても「親」という言葉に誤解や過剰な期待をいだかせることにもつながる。 また、犬や猫や植物にも「里親」の名称が社会的に流布されていることから、この機会に「里親」という名称について議論し、「新たな名称」の出現を期待する。

要望58[養育ケースの共有]

< 国への要望 >

過去の里親による養育ケースのデータは膨大になるはずであり、それを今後活かしていけないのは制度の損失である。 子どもの福祉のために、また施策などの検証のためにも、児童相談所が保管している過去の社会的養護の記録をもっと活用すべきではないか。 例えば子どもたちの成育歴が把握できただけでも、施設養育の影響などは今までより格段に客観的な判断ができると思われる。

要望59 [養育記録の利用]

< 国への要望 > 里親による里子の養育、養親による養子の養育は困難事例が少なくなく、いろいろな支援が必要であることは、関係者の間で広く認められている。 現在までその支援が不充分であったことも、多くの方が認めているところであり、養育里親・養子縁組里親に対する支援のなかで必要なことは、この先人たちの経験を、整理して伝えることだと考える。 それは新しく里親・養親になった人たちに心構えを促す役割も果たしていくだろう。 また、里子・養子養育の困難は、思春期、成人期に表出しやすく、里親・養親を困惑させる。 養育中の子どもの性質や境遇などからみて、その特定の子どもに類するケースは、過去にどのくらいあって、どうなったのかなど、できるだけ整理した統計的情報を示されれば、それによって、養育者がある程度の見通しを持つことを助けるのではないか。

要望60 [記録の管理方法]

< 国への要望 >

「ライフストーリーワーク」など、成育歴の整理に参加した研究者の中で、今後の子どもたちの福祉のためには、記録の取り方・保管の仕方をどうすべきか検討されるようになった。その結果として過去の経験を有効に未来の子どもたちの福祉に役立てることができるようになるのではないか。 数少ない専門職の限られた経験だけではなく、全国規模で養育上発生した様々な問題や事象、またその経緯や試行錯誤して解決された問題などをデータベース化して検索できる仕組みを構築することは、これから子どもたちを家庭で養育する里親にとって、また支援する側にとっても貴重な財産になると思われる。また、その児童福祉分野の過去のケースのデータペース化における個人情報の取扱いについては、医療や法律の分野での過去データの症例記録方法を参考にできるのではないか。

要望61 [将来を見すえた多様な養育支援]

< 国への要望 >

子どもの個性や将来像に合わせた養育・教育を重視し、必要と認められれば里親家庭から山村留学や離島留学、または高校を休学して海外で学ぶなど、学校の選択を含め多様な養育を認めていくべき時代だと思う。

(5) 第三者機関の役割

要望62 [透明性と中立性]

< 国への要望 >

「新ビジョン」の子どもの権利を守るためには、立場の違う大人同士の利害が関係しない客観的な立場で評価する機関が必要である。そして、言葉や考えも未熟な子どもの意見を代弁する未成年後見人役も必要である。

要望63 [措置解除]

< 国への要望 >

子どもにトラブルがあった場合、児童相談所が里親に対して説明もなく引き上げる事例を幾度となく耳にするが、里親家庭の内部で起こることは検証が困難で、子どもが虚偽の回答をする例もあり、里親と子ども双方の権利を守るためにも中立的な第三者がすべての里親家庭に客観的に関わる必要がある。

要望64 [一時保護所]

< 国への要望 >

一時保護所は、保護された経験のある当事者が二度と行きたくないと言うことも少なくない。

ストレスの強い状況下におかれる子どもの児童間暴力の防止や、発達障害などの特性の子どもにも配慮した一時保護所の全国統一基準を設け、適切な第三者評価を義務付けることは必須ではないか。

要望65 [数値目標]

< 国への要望 >

児童相談所は、数値目標達成のために子どもの状況を無視した強引な委託ではなかったかを客観的に検証するプロセスが必要になるのではないか。

要望66 [幸福度]

< 国への要望 >

すべての社会的養護の子どもの「幸福度」に注目した評価基準を創設して欲しい。 将来の自立を見据えた準備も必要だが、子どもたちが「幸せな子ども時代を過ごせた」と感じられることがその子どものリジリエンスを高め、結果的に自立後の困難に向き合える強さにつながると信じる。 社会的養護のもとで育ったすべての子どもたちが「生まれてきて良かった」と思える育ちと生活であって欲しいと願う。

(6) 国の役割

要望67

以上、66項目に及ぶ今回の要望は、日本の未来である子どもたちが直面している様々な困難を一刻も早く解決するために私たちが議論したことを政治家や行政の担当者、報道関係者などに要望として投げかけ、投げ返していただくフィードバックを繰り返すことで整理されていくと思います。こうしてトップダウンでなく、多くの国民を巻き込んだボトムアップの施策を、国と国民の役割として認識し、共に推進しましょう。 「子どもの虐待死」についても未だ反省もなく喰い止めることができない現状に、悲しみと苛立ちをもつ国民も多いことでしょう。命に向き合わず、社会システムの改革に乗り出さないのは、将来に対する怠慢です。 「新しい社会的養育ビジョン」は、発表された当初は数値目標や期限に注目が集まり、否定的な意見も多く出ましたが、内容は現状の不備を突いた、極めて児童福祉に貢献する内容でした。「期限」について、私たちは努力目標として掲げ、変更すべきではないと考えます。この期限があるからこそ目標に向かって前進し、先進国との30年と言われる児童福祉の差を縮めることができるのではないでしょうか。 人は生まれるところを選べません。どのような家庭環境に生まれても安心してその命が育まれ、愛され、平等に学ぶ機会を得て、成人した時にフェアスタートが切られるよう、ひとりひとりの命と人生を大事にする社会になることを願っています。 以上、拙い文章で多分に読みづらい点もあったかと思いますが、最後まで目を通していただけたことに感謝申し上げます。

2018年7月7日 早稲田里親研究会「新しい社会的養育ビジョン」研究班

代表世話人 川名はつ子、松本 素子

参加者氏名:赤塚睦子、川瀬たつ子、後藤多美子、杉山葉奈、鈴木章之、早川榮一

他24名(延べ参加者80余名)